不妊症とは

妊娠を希望している健康な男女のカップルが、避妊をしないで定期的に夫婦生活(性交渉)を行っても1年間妊娠しない状態を不妊症と言います。不妊症の原因はさまざまで、女性側、男性側、もしくは男女両方に原因がある場合など、または原因が分からない場合もあります。
妊娠のしやすさは、女性の年齢により大きく変化します。一般的に、もっとも女性が妊娠しやすい年齢は20歳前後で、年齢が上昇するとともに、特に30代後半になると、妊娠し難くなります。そして、女性の年齢が45歳を過ぎると、たとえ排卵や月経があっても、赤ちゃんとなって生まれてくる可能性のある卵子は極めて少なくなります。近年は初婚年齢が上昇しており、なかなか妊娠しないカップルの割合は、上昇しているものと思われます。

女性側の不妊原因

排卵の障害

卵巣内で卵胞(卵子を包んでいる袋)が発育していくと排卵が起こります。月経が規則的にきている人では排卵が予測しやすいですが、月経が不順であれば排卵の予測が難しかったり、排卵を伴っていなかったりします。排卵障害をきたす原因には、肥満や極度の痩せ、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺機能異常、乳汁分泌ホルモンの分泌異常(高プロラクチン血症)、心身のストレスなどが挙げられます。基礎体温を測定・記録をしてみると、排卵しているかどうかのおおよその見当がつきます。排卵がうまくできていない、または排卵の周期がバラバラで予測が立てられない場合には排卵を促す薬(排卵誘発剤)を使用する場合があります。

卵管の異常

卵管は子宮と卵巣をつなぐ管で、精子と卵子の通り道になります。卵巣から排卵してきた卵子は卵管の中に取り込まれ、そのタイミングで性交渉があれば精子が卵管の中に泳いできて、卵子と精子が出会って受精卵となります。受精卵(胚)は子宮に向かって移動し、子宮の中に着床すれば妊娠の成立となります。卵管が閉塞していると卵子と精子は出会えず、妊娠が難しくなります。
卵管を閉塞させる原因としては、クラミジア感染症や子宮内膜症、術後の癒着(腹部や骨盤内の手術の既往がある方)などがあります。卵管の通過性を調べる検査には、卵管通水検査、子宮卵管造影検査があり、必要に応じて検査を行っていきます。

子宮頸管の異常

子宮の入り口にある子宮頸管は、外部からの細菌などの病原体が侵入しないようにバリアの機能を果たしています。排卵期に近づくと透明で粘稠なおりものが増加し、おりものが変化することによって精子が子宮内へ進みやすい環境に変化します。子宮頸部の手術や炎症によって、頸管粘液が十分に分泌されなくなると、精子が子宮内へ侵入しづらくなり、不妊症の原因になります。

子宮の異常

子宮筋腫(粘膜下筋腫など子宮内腔を変形させるような筋腫)や子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、先天的な子宮形態異常は受精卵の子宮内膜への着床を妨げることがあり、不妊症の原因となります。また、子宮内腔に何らかの原因によって癒着をきたして月経量が減少する子宮腔内癒着症(アッシャーマン症候群)も、着床障害による不妊症をきたします。

免疫の異常

抗精子抗体(特に精子不動化抗体(精子の運動を止めてしまう抗体))を産生する女性では、頸管粘液内にも抗体が分泌され、運動精子の通過を妨げてしまいます。また卵管内にも精子不動化抗体は分泌され、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても、卵管内でその通過が妨げられてしまいます。受精の場面でも、精子不動化抗体は精子が卵子と結合することを妨害し、不妊症になることがあります。

加齢の影響

女性は30歳を過ぎると妊娠する能力(妊孕能)が低下しはじめ、35歳を超えるとその低下が加速すると言われています。加齢による妊孕能低下は、卵巣内の残存卵子数が低下することと、卵子の質の低下、そのほか子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が増えることが大きな原因であると考えられます。

男性側の不妊原因

精巣機能の異常(造精機能障害)

精子は精巣(睾丸)の中で作られ、精巣上体を通り抜ける間に運動能力を獲得し、受精能力を有した成熟精子となります。精巣での精子形成や、精巣上体での成熟過程に異常があると、精子の数が少なくなったり、精子の動きが悪くなったり、奇形率が多くなったりして、受精する力が低下します。造精機能が低下する約半数は原因不明であり、不摂生な生活習慣、精巣の温度が上昇するような環境での生活、射精の頻度の減少なども関係しています。
原因が判明する病気で多いのが、精巣の周辺血管(静脈)が怒張する精索静脈瘤で、これは外科的手術によって精液所見が回復する可能性があります。そのほか、視床下部や下垂体から分泌されるルモンの低下(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)、停留精巣の手術後やおたふく風邪による精巣炎、染色体異常(クラインフェルター症候群など)、Y染色体上の遺伝子の微小欠失に代表される遺伝子異常、抗がん剤なども造精機能の低下、消失をきたす場合があります。

精子の通過障害

精子は精巣内で作られた後、精巣上体、精管、射精管を経て尿道に射出されます。このルートが欠損・もしくは遮断されている場合、精巣内では精子が作られているにも関わらず精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症となります。代表的な疾患として先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症性閉塞、鼠径ヘルニア手術等があります。閉塞した精路を再建したり、精巣内の精子を回収して顕微授精することにより、挙児の可能性が出てきます。

性機能障害

性機能障害には、勃起障害(ED)と射精障害に分けられます。勃起障害は、有効な勃起が起こらず性行為がうまくいかない場合をいい、その原因には神経性や血管性(動脈硬化や糖尿病など)、心因性、薬剤性などがあります。勃起はできるが射精が困難なのが射精障害といい、その多くはマスターベーションでの射精はできるが、腟内では射精が難しいケースです。不妊症の治療として性行為そのものをプレッシャーに感じてしまいEDをきたすケース、同じ原因で勃起挿入はできるものの射精のプレッシャーから腟内射精ができない腟内射精障害も多く存在しています。そのほか、射精はできているものの精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精や、精液が出なくなる無精液症、早漏・遅漏のように射精に関する全ての機能が備わっていても最終的に本人の満足のいく射精が出来ない場合もあります。

原因不明の不妊症

不妊症の検査をしても明らかな原因が見つからない場合を「原因不明不妊」と呼びます。これは本当に原因がないわけではなく、現在の検査では見つからない原因が存在している可能性があります。原因不明不妊は、以前は不妊症の約10~15%を占めるとされてきましたが、最近は高年齢で特定の不妊原因をもたない方が増えているため、その割合は増加傾向にあると推定されています。

検査について

不妊症が疑われる場合、原因を特定するための検査を行います。

女性側

  • 問診(月経周期、妊娠歴、既往歴、生活習慣、治療歴)
  • 血液検査(FSH、LH、PRL、エストロゲン、プロゲストロン、AMH(抗ミュラー管ホルモン)、風疹抗体、甲状腺機能、糖尿病、抗精子抗体、ビタミンDなど)
  • 超音波検査
  • 子宮卵管造影検査
  • 卵管通水検査
  • 子宮頸管粘液検査
  • ヒューナーテスト(性交後試験)

男性側

  • 精液検査

当院で可能な不妊治療

タイミング法

タイミング法とは

排卵期に性交渉をすることで、妊娠率は上昇します。最も妊娠しやすい時期は排卵日の2〜5日前の間と言われており、排卵日をできるだけ正確に予測する必要があります。経腟超音波検査で卵胞のサイズを計測したり、尿検査(尿中に含まれるLH(黄体化ホルモン)の検出)、血液検査を行うことで、排卵日を予測してタイミング指導を行っています。

人工授精(AIH)

人工授精とは

人工授精とは、マスターベーションで精液を採取し、その中に含まれる運動精子を集めてカテーテルで子宮に精子を注入していく治療法です。タイミング法では妊娠に至らなかった場合の次のステップとして行われることが多いですが、性交渉が上手くいかないカップルや、精液検査で精子数や運動率が低い場合、抗精子抗体が陽性の場合には、初回から人工授精を行う場合もあります。

排卵誘発

排卵誘発とは

排卵障害を有する人では排卵誘発を併用する場合があります。内服薬や注射薬などを使用し、個々の状態に応じで対応しています。卵胞発育を認めた場合には、タイミング法や人工授精に向けた計画をしていきます。

複数回の人工授精でも妊娠に至らない場合、その他、女性の年齢や合併症の有無によって、極度に運動精子が少ない場合には早めに体外受精(ART)をお勧めする場合もあります。その際には、治療を希望する施設への紹介を行っております。

プレコンセプションケア

コンセプション(Conception)には受胎・妊娠という意味があり、プレ(pre)と合わせると「妊娠前のケア」と直訳されますが、プレコンセプションケアとは、単に妊娠・出産・子どもを持つことに対するヘルスケアではないとされています。若い世代が将来のライフプランを考えながら、日々の生活や健康と向き合うことが主体です。また、「現在の自分」や「将来の自分」の健康だけでなく、次の世代を担う子どもたちの健康にも関わります。妊娠や出産を希望しない方にとっても、性や妊娠・出産について正しい知識を持ってことは、自分や相手を守るために必要なことです。プレコンセプションケアは、自分らしい幸せ(well-being)を実現するための新しいヘルスケアとして注目されています。
まずは現在の自分の状況を見直して、ついで、普段の生活習慣を整えることからスタートしましょう。そして、自分が目指すライフスタイルのために必要な検査やワクチンを受け、かかりつけ医を持ちながら人生プランを考えてみることが大切です。

自分の生涯における健康づくりのため

子どもを持つか持たないかにかかわらず、若いうちから健康や性・妊娠・出産に関する正しい知識を持ち実践していくことは、自分自身の健康を守ることに繋がります。また、これらの知識は自分だけでなく大切な相手を守るためにも重要な知識です。長い人生の中で、健康で自分らしい生き方を選ぶためにも、少しでも早くから取り組んでいきましょう。

健康な妊娠や次世代の健康のため

近年、出産年齢の高年齢化が進んでいることから、リスクの高い妊娠が増加しています。また、不調を我慢し続けた結果、不妊の原因になることもあります。さらに、女性の痩せや肥満によって低出生体重児や巨大児などのリスクを高めることがわかっています。思春期など早い時期からプレコンセプションケアに取り組み、妊娠前のリスクを減らしていくことで、子どもを持ちたいと思った際の健やかな妊娠・出産や生まれてくる赤ちゃんの健康にもつながっていきます。